【F1】なぜタイヤを交換?走行距離が短い理由を解説

F1の技術

みなさんはF1のタイヤ交換を見たことはあるでしょうか?メカニックのタイヤ交換の素早さには見とれてしまいますよね。しかしなぜF1のタイヤはレース中に交換しないといけないのでしょうか。F1はモータースポーツの中で一番お金を使って技術開発が行われているにもかかわらず、私たちが普段使っている一般車のタイヤよりも長続きしません。

実はそこにはしっかりとした理由がありました。今回はその理由についてタイヤそのものの説明も交えながら解説していきたいと思います!

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タイヤの役割

まずはそもそもタイヤは車の中でどのような役割があるのかを見ていきましょう。

タイヤの役割は地面との間にグリップ力を持たせることです。

タイヤは車の中で地面と接している唯一の部品で、エンジンの動力、ステアリングの操舵、ブレーキなどのすべての力がタイヤを通して地面に伝えられます。タイヤにグリップ力がないと力を地面にうまく伝えられず、車のコントロールが効かなくなります。

またタイヤの特性によって力の伝わり方が異なったりするのでタイヤはF1やレーシングカーの中で最も重要なパーツの一つなのです。

タイヤのトレッドの特性

タイヤはグリップ力を得るために柔らかいゴムでできています。ゴムが柔らかいと地面の小さい凹凸に食い込むように変形するのでグリップ力を得ることができます。

このゴムの部分をトレッドと呼びます。トレッドというとタイヤの模様のことを指すことがありますが、正式にはトレッドとはタイヤの一番外側のゴムの部分を言います。

トレッドは主に自然ゴムや合成ゴムなどで構成されています。

他にもカーボンブラックがトレッドの強化のために用いられ、抗酸化物質なども腐食防止に使われています。シリカという物質は転がり抵抗の低減のために使用されています。

これらの構成物質の量を微調整することで、走行距離やタイヤの柔らかさ、使用温度などの特性を決めることができます。

一般のタイヤでは燃費や乗り心地が重要視されますが、F1のタイヤはとにかくグリップ力が重要視されるため転がり抵抗の減少のためのシリカはほぼ使用されていません。また自然ゴムよりも合成ゴムが多く使用され、強度や耐熱性が強化されています。抗酸化物質などはタイヤが酸化し始める前に使い切ってしまうので必要ありません。

なぜF1のタイヤは長続きしないのか?FIAのタイヤへの要求とは?

さてここまででタイヤの役割とタイヤ特性について学びましたが、ここからは本題の「どうしてF1のタイヤは長続きしないのか」について解説していきたいと思います。

結論から言うと長続きしないのではなく、させていないのです

2024年現在タイヤ供給を行う会社はピレリの一社ですが、FIAはピレリに対してタイヤが長続きしないように要求しています。これはレース展開を面白くするためで、もしタイヤ交換がなくなるとレース戦略などが必要なくなり、レースクオリティが下がってしまいます。それを避けるためにタイヤの航続距離が長すぎないように作られていたのです。

さらに各コンパウンドのパフォーマンスに対しても基準があり、ハードタイヤをベースにミディアムは1ラップにつき1.2秒早く、ソフトは2.2秒早くなるように設計されています。

またFIAはタイヤの安全性も重視しており、ピレリでは次のテストを行っているそうです。

  • 450km/hまでのスピード走行テスト
  • 260km/hでの衝突テスト
  • 150℃までの耐熱テスト
  • 1000kgまでの耐荷重テスト

ピレリではFIAからの要求を満たすコンパウンドをそれぞれ製造し、これらのテストに合格したタイヤを厳重な管理のもとF1に供給しているのです。

どのように航続距離を調整しているのか

さてピレリがFIAに要求されたスペックのタイヤを供給することがわかったわけですが、具体的にどのようにして航続距離を調整しているのでしょうか。

まず1つ目はタイヤの摩耗です。ドリフトを思い出してほしいのですが、ドリフトをすることでタイヤは消しゴムのように削られていきますね。実はドリフトをしなくても、加速、減速、コーナリングをするだけで微小にドリフトと同じことが起きています。F1のタイヤでは高いグリップ力で非常に大きい荷重を支えているため、摩耗もより大きくなります。

さらにそもそものトレッドの厚さも乗用車が30mmほどあるのに比べてF1では3mmほどしかありません。乗用車より早く摩耗が進むうえに摩耗される部分も薄いとなるとタイヤの航続距離を大幅に制限することができるのです。

しかし摩耗だけではタイヤ交換しなくてもレースを走り切ることが不可能ではありません。

タイヤ交換の必要性はもう1つの理由からです。それは熱による劣化です。サーマルデグラデーションと呼んだりもします。

ゴムは熱硬化性樹脂なので、一度熱を入れて冷ますと固くなってしまいます。トレッドが固くなると路面にタイヤが食い込まなくなりグリップ力が落ちます。乗用車ではタイヤの使用温度範囲は比較的広く、さらに温度は高くても50℃くらいまでしか上がらないので問題ありません。

しかしF1のタイヤの使用温度範囲はソフトタイヤだと90~115℃、ハードタイヤだと110~140℃にまで上り、しかも使用温度範囲がかなり狭いです。タイヤがこの範囲の温度を超えると、トレッドが柔らかくなりすぎてグリップ力が落ち、スライドするようになります。

スライドすると摩耗によって温度が上昇し、さらにグリップが落ち・・・と繰り返し、最終的に150℃くらいまで上昇してしまいます。これによりトレッドの一部が硬化してしまい、路面にトレッドが食い込まずにグリップが落ちてしまうのです。

熱劣化はトレッドの摩耗によるタイヤの限界よりも早く起こってしまうのでレース中のタイヤ交換が必須となるのです。

ちなみに硬化したトレッドの一部はブリスターという形でタイヤに現れます。これが形成されるとタイヤが熱劣化している証拠となります。

ブリスター

まとめ

今回はレース中のタイヤ交換の必要性についてタイヤのトレッドの働きとFIAからのタイヤパフォーマンスに関する要求から紐解いてみました。まとめると、

  • FIAによってタイヤの航続距離は制限されている
  • その制限に基づくように摩耗、熱劣化を計算したタイヤの構造になっている

の2点をこの記事からわかっていただけると嬉しいです。

タイヤに詳しくなることでレース展開の予想などができるようになり、より面白く観戦できるようになりますね!

F1ではタイヤ以外にも最先端技術が取り入れられています。こちらの記事でF1の技術について解説しているのでぜひ一読ください!

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