F1で学ぶ流体・空気力学その2 剥離と渦

F1の技術

第2回は乱流、抵抗、渦についてです。難しい数学は一切使いません。さらに今回はイメージが大事になってくるので、第1回の数式がわからなかった方でもわかりやすいのではと思います!

第1回はこちら!

前提知識

今回の解説を始める前に前提知識が必要になるのでそれをまず解説したいと思います。

粘性

流体力学では粘性が最も重要なパラメーターのひとつとなります。

年生とは、流体を変形させようとするとそれに抵抗する性質のことです。ようするに粘り気です。

すべての流体は粘性をもっており、はちみつは特に粘性の高い流体です。空気も粘性をもっていて、これが翼に影響を及ぼします。

層流と乱流

層流とは流体中の分子が流れの向きに沿って規則正しく流れている流れです。

乱流とは流体中の分子が不規則に動き回る乱れた流れです。

流れの速度が遅く、粘性が高いと層流に、その逆だと乱流になります。

境界層

粘性をもった流体が物体の周りを流れるとき、粘性によって物体表面での流体の速度は0になります。物体表面から徐々に離れるにつれ流体の速度は上がっていき、やがて本来の速度に達します。この流体速度が本来の0から99%になっている層のことを境界層といいます。

境界層も層流になったり乱流になったりします。

なぜ空気は翼に沿って流れるのか

傾斜のついた翼に空気を当てると翼に沿って流れます。しかし空気にも慣性が働くため、本来翼の下側を通る空気は翼に沿うはずはありません。

ここで図を見てみましょう。

仮に下側の空気が直進する場合、翼との間に空間ができます。この空間には空気がないため圧力は小さくなります。前回説明した通り、力は圧力が高いところから低いところに作用するので、下側の空気はこの力によって押し上げられているのです。

空気の流れが翼に沿わない場合

翼の傾きを多くしてみましょう。

傾きが大きいと慣性の力がより顕著に表れ、空気の流れが翼に沿わなくなってしまいました。この状態を「剥離」といいます。

剥離が起きると空気の下半分は直進するためその分の反作用を受けられずダウンフォースは低下します。さらに本来下側の空気が流れるはずだった場所になにもなくなるため負圧が生まれます。負圧は翼の真後ろで生まれるので、翼前後の圧力差により空気抵抗を作り出してしまいます。

このように剥離が起こるとダウンフォースの低下、空気抵抗の増加という二重悪が発生するので剥離を起こさないようにする措置が必要です。

剥離を防ぐには

剥離を防ぐには単純に翼の角度を浅くするというのもありますが、それでは必要なダウンフォースを発生させられない場合はどうすればいいでしょうか?

答えは「渦を作り出す」です。

なぜ渦を作り出すと良いかというと、渦によって流れが乱流になるからです。乱流では流体分子間で運動量の交換が盛んに行われるため、境界層の翼表面に近い部分の速度が上がり剥離が遅くなります。

こちらの2つの動画が詳しく解説しているので参考にしてください。

渦を作り出すために取り付けられるものをボルテックスジェネレーターといいます。これは突起のようなもので、層流の中に小さい乱れを作り出すことができます。

ボルテックスジェネレーターはF1で開発され、飛行機にも使われています。現在では乗用車にも活用され、燃費向上に貢献しています。

F1において剥離を避けることはウィングだけでなくシャシー全体にわたって非常に重要です。そのためボルテックスジェネレーターがあらゆるところに取り付けられています。

例としてフロントウィングを見てみましょう。

フロントウィングの内側のフラップに注目してください。フラップ内側の先端が細くなっています。フラップ上面は高圧になっており、下面は低圧です。すると細くなった内側先端では空気が上面から下面に回り込もうとします。こうすることで渦が発生しているのです。

レギュレーションで規制される前のフロントウィングが複雑な形状をしていたのは、ダウンフォースを生み出すだけでなく後ろに流れる空気が剥離しないため、さらにタイヤの乱流を巻き込まないため渦を生み出すように設計されていたからです。

まとめ

今回学んだことをポイントごとにまとめました。

  • 剥離が起こるとダウンフォースが減少し空気抵抗が増加する
  • 境界層が乱流になると剥離を遅らせられる
  • ボルテックスジェネレーターによって渦を作り出すことで境界層を乱流にできる
  • F1ではありとあらゆるところにボルテックスジェネレーターが取り付けられている

次回はディフューザーなどのエアロパーツがどのような役割を果たしているかについて解説したいと思います。

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