F1エンジンの仕組み・技術をまとめてみた

F1の技術

みなさんはF1のエンジンにどのような印象をお持ちでしょうか?私は轟音とともに駆け抜けるあのエンジン音が大好きです。さらにハイパワーエンジンは特に男性は憧れる方も多いのではないでしょうか?

今回は現代F1に使用される最新技術を3つ紹介したいと思います。また今回はエンジンとターボに絞って解説していますが、ハイブリッドシステムやパワーユニット全体について知りたい方はこちらをご参照ください。

乱流ジェットインジェクション

まずは乱流ジェットインジェクションです!

といってもなんのことかさっぱりですよね。これはエンジンをいかに効率よくするかに関わる技術ですが、理解するために前提知識が必要です。

まずはエンジンのパワーとはどのように計算されるのか見ていきましょう。

エンジンのパワー = トルク x 回転数

という風に表せます。

トルクというのはエンジンのピストンが下に押す力だと思ってもらえれば大丈夫です。

この式からトルクを上げる、または回転数を上げることでエンジンのパワーが上がることが理解できると思います。

ここでエンジンのトルクを上げる方法を見てみましょう。

トルクを上げるには、

  • 排気量を大きくする
  • 熱効率を高める(燃料を無駄にせずすべて燃焼させる)

の2つがあります。

おそらく排気量を大きくする、というのは理解しやすいですね。一般車でも排気量が大きい車ほどトルクがあり安定した走行が可能です。

2つ目の熱効率を高めるというのは少ない燃料でどれだけのパワーを捻出できるかということです。

F1ではレギュレーション上エンジンの排気量、気筒数が決められており、最高回転数も15000RPMに制限されています。さらに燃料総量は110kg、燃料流量も100kg/hに制限されるされています。

つまり単純に排気量を大きくしたり、2000年代のF1のように超高回転にするわけにもいきません。
燃費をよくし、熱効率を高めることがエンジン開発の要というわけです。

熱効率を上げるにはどうすればいいでしょうか?

答えは圧縮比と空燃比を高めることです。

(ここは難しいので飛ばしてもらっても大丈夫です)
熱力学に基づくと、ガソリンエンジンはオットーサイクルという理論エンジンが元になっています。オットーサイクルでの熱効率は圧縮比と比熱比によって計算されます。比熱比は混合気の空燃比によって決定し、空燃比が高いと比熱比も高くなります。圧縮比と空燃比が高いと熱効率が高くなるのです。

圧縮比と空燃比を同時に高めることは非常に難しい技術です。なぜならノッキングを起こしたりうまく点火されなかったりするからです。特にF1のようにターボを使用しているとトラブルがより顕著に出るようになります。

しかしF1ではこの2つを見事に両立し、熱効率50%を達成しました。

これを達成したのが乱流ジェットインジェクションという最先端技術です。

ドイツのエンジン製造会社MAHLEが開発し特許を得ています。

この技術ではエンジンの燃焼室が2つあり、主燃焼室のほかに副燃焼室が主燃焼室の上に取り付けられています。

まず副燃焼室にて燃料の5%ほどを使用して空燃比の低い混合気に点火します。点火された混合気は勢いよく主燃焼室に噴射されます。おそらく言葉で説明するより映像で見たほうがイメージしやすいのでMAHLEのYouTubeをご覧ください。

副燃焼室の先にはノズルがついており、等間隔に空いた穴から混合気がまるで火炎放射器のように噴射されます。

この技術の凄いところは火炎放射器のように炎が噴射されるため、燃料の少ない混合気でも点火を確実に起こせることです。従来の点火プラグをチャッカマン、乱流ジェットインジェクションをガスバーナーとイメージするとわかりやすいかもしれません。

乱流ジェットイグニッションは2014年のパワーユニット導入に伴いメルセデスがいち早く採用しました。フェラーリも2015年に採用に成功し、今では全F1エンジンの採用に加え、GT500にも採用されています。

モータースポーツは燃費の悪い車で燃料を無制限に使用しているイメージがありましたが、一般車よりも燃費に気を付けてその最先端を走り続けているのです!

航空機の技術を取り入れた高効率ターボ

続いてはターボです!F1のターボの技術には実は航空機の技術が使われていました。どのような経緯で航空機の技術が使われるに至ったのか見ていきましょう。

その前に前提知識を少し知りましょう!

まずはターボの構成部品です。ターボはタービンとコンプレッサー、その2つをつなぐシャフトという3つの部品で構成されています。タービンはエンジンの排気経路に設置され、排気ガスによって風車のように回転します。タービンに繋がれたコンプレッサーも回転し、吸気ガスを圧縮することでエンジンに多くの空気を送り込むことができます。

ターボの効率を上げるには吸気側の温度を下げる必要があるため、1000度以上の高温の排気ガスにさらされるタービンと吸気側のコンプレッサーをお互いから離れた場所に配置することが必要です。

問題は2つを離すとシャフトが伸びることです。F1のターボは100000RPM以上で回転し、走行中の振動も加わるためシャフトが伸びることによる強度の低下は致命傷です。

ホンダは2017年のターボの大径化に伴うシャフトの伸長によってこの問題に直面し、数々のリタイアに頭を悩ませました。

ホンダF1エンジンのターボ。乗用車のターボと違い左右のタービンとコンプレッサーをつなげるシャフトが非常に長い。

この問題を解決したのは航空技術でした。ホンダにはホンダジェットという航空機部門があり、F1エンジン部門はホンダジェットとともにこの問題を解決しました。

航空機に使用されるジェットエンジンは、前方から侵入する空気をコンプレッサーで圧縮し、それを燃焼させて排気ガスを後方に放出します。排気側にはタービンが配置され、タービンは長いシャフトを通じてコンプレッサーに繋がれていました。つまりF1のターボが実現しようとしていたことはすでにジェットエンジンによって実用化されている技術だったのです。

ホンダジェットのジェットエンジン。圧縮機(コンプレッサー)とタービンが長いシャフトで繋がれている。

ホンダジェットによって設計が見直され、ベアリングの配置やシャフトの径の変更などによってこの問題は解決されました。

これにより2018年シーズンのホンダエンジンはトラブルが激減し、ホンダジェット協力のもとターボの開発に取り組んだ結果、2021年のチャンピオンを獲得することができました!

ニューマチックバルブシステム

最後にニューマチックバルブシステムです!

ニューマチックバルブシステムは高回転エンジンに特化した技術です。1986年にF1に参戦していたルノーが開発しました。その後ターボが禁止され、エンジンのさらなる高回転化によってすべてのF1エンジンで使われる技術になりました。

ニューマチックバルブシステムは吸排気バルブの戻しを圧縮空気によって行う技術です。通常の乗用車ではカムシャフトが押したバルブはコイルスプリングによって戻されます。この戻しをコイルスプリングの代わりに空気を使っています。

F1のエンジンは現在15000RPMまでの高速回転での運用が想定されており、2013年まで18000RPM、さらに制限がない時代は20000RPMを超える速さで運用されていました。

しかしこのような高回転エンジンに通常のコイルスプリングを使用するとその回転速度に追従できなくなりバルブをもどしきれなくなったり、コイルスプリングの固有振動数に達してしまって振動によるバルブの想定されない開閉を起こしてしまい、最悪の場合バルブがピストンにあたってエンジンブローを起こしてしまいます。

そこでニューマチックバルブシステムではコイルスプリングの代わりに圧縮空気を使用することで回転速度に追随でき、また共振を起こさないバルブ開閉を実現しました。

1986年に初めて使用されてからすでに35年以上たっていますが、いまだにF1で現役で使用されている最先端技術です。NA高回転時代のファンの方にとってはとても思い入れのある技術かもしれません!

まとめ

今回はF1エンジンの技術をまとめてみました。F1はただ速く走るだけでなく、燃費などの効率的なエンジンが求められている点は特にみなさんに知ってもらえたらと思います。さらに自動車だけでなく航空機の技術を取り入れているF1では開発スピードを生かして航空産業にも技術革新を起こしていることも忘れてはいけません。F1のようなモータースポーツによってこれからも世界に役立つ技術が発展していくと考えるとわくわくがとまりませんね!!

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