耐久レースの最高峰「WEC」。そのトップカテゴリーに君臨しているのが「ハイパーカー」クラスです。その中でも「LMH」と「LMDh」という2種類のマシンが出走しているのはよく知られていますね。今回はその2つがどのように違うのか、そしてなぜハイパーカーがこれほどの人気を博しているのか解説していきます!
WECのルールについてはこちら!
LMHとは?


LMHとは、”Le Mans Hypercar“のことを表しています。LMHはACOとFIAによるハイパーカーレギュレーションに準拠して自動車メーカーが製造するマシンのことです。WECにおいてLMP1カテゴリーに変わってトップカテゴリーを担うマシンとして2021年から参戦しています。
このレギュレーションでは、比較的自由な車体設計が許されていて、マニュファクチャラーはシャシー、ボディーワーク、エンジン、ギアボックスなどそのほとんどの部品を独自に設計することができます。
またハイブリッドシステムの有無もマニュファクチャラーによって選択可能です。例えばトヨタはハイブリッドシステムを搭載していますが、アストンマーティンは純粋なエンジンのみの出力となっています。
ハイブリッドシステムの搭載方法についても比較的寛容で、トヨタのようにモーターを前輪の出力、エンジンを後輪の出力とすることで4WDとすることも可能となっています。
このように比較的寛容なレギュレーションですが、最大出力と最低重量は制限があり、それぞれ500kW (670馬力)、1030kgとなっています。さらに各マシンの性能調整のためレースごとにBoPが課せられるため、マシンの性能は毎レース微妙に違ってきます。
LMDhとは?


LMDhとは、”Le Mans Daytona h“を表しています。LMDhのレギュレーションはIMSA北米耐久選手権のDPIカテゴリーの後継カテゴリーとしてACOとIMSAによって作られています。
内容としては、ボディーワークとエンジン以外はすべて指定のものを使わないといけないということです。
すべてのLMDhの共通部品として、
- Xtrac製ギアボックス
- Bosch製MGU
- Fortescue Zero製HVバッテリー
が使用されています。
またシャシーは以下のブランドからひとつを選択することになっています。
- Multimatic
- Dallara
- Oreca
- Ligier
これらのシャシーは2028年からLMP2カテゴリーでの使用が検討されているようです。
LMDhのマシンはハイブリッドシステムの搭載が義務づけられています。ただしLMHのように4WDにすることはなく、すべてが後輪に出力されます。
ボディーワークについては各マニュファクチャラーによって比較的自由な設計が許されているので、それぞれの個性を出す最適な領域となっているようです。


参照: X.com/FIAWEC
最高出力、最低重量についてはLMHと同じく500kW(670馬力)、1030kgの制限があります。またBoPも同様に課せられます。
LMHとLMDhはどの選手権に出られるの?
上記のように同じ出力、最低重量があることに加え、BoPによる性能調整があることでLMHとLMDhは違うレギュレーションに沿っているにも関わらず同じカテゴリーに参戦することができるのはお分かりいただけたと思います。
性能が同じということでどちらのマシンもWEC、北米耐久選手権のどちらの選手権にも出場が可能です。
LMDhはWECに参戦できてもLMHはIMSA北米耐久選手権には参戦できないという噂がネットにあったようですが、これは間違いです。
なぜこんなに人気なのか?
近年ハイパーカークラスの導入により爆発的な人気を誇っているWECですが、その理由も考えてみました。
まずLMHとLMDhが同じカテゴリーで参戦できること。これまで統一規格ではないにも関わらず同じカテゴリーでレースをするのはそこまで多くはなかったでしょう。これによりWECと北米耐久それぞれの参戦チームが新しいマシンを専用に作らなくてもお互いの選手権に参戦できるので、より多くのマシンが参戦できます。
2つ目としてマシンがLMP1に比べて安価であることです。
LMP1では年間2億ユーロ(約300億円)を費やしていましたが、ハイパーカーは3000万ユーロ(約45億円)で収まるレギュレーションになっています。これによりプライベーターの参戦も可能となっており、より多くのマシンが参戦できるようになりました。
LMP1ではシャシーは3年間使い続けており、エンジンやハイブリッドシステム、エアロなどを頻繁にアップデートしていました。しかしハイパーカーでは車両の基本設計(シャシー、エンジン、ハイブリッドシステム、エアロなど)は、ホモロゲーション後、原則として5年間変更できません。
LMP1ではこのような制限の緩いレギュレーションの中軽い車体と1000馬力を超えるパワートレインによってより速さを求めていましたが、コストは増える一方となり撤退するマニュファクチャラーが相次ぎました。このような背景からハイパーカーでは開発費がかかりすぎないようなレギュレーションとなったのでした。
ハイパーカーはLMP1よりもルマンで1ラップあたり10秒ほど遅くなりましたが、これによって参戦台数の増加に貢献し、ファンにとってはより良い結果となったのです。
まとめ
今回はLMH、LMDhの違いとなぜハイパーカーが人気なのかについて解説しました。
- LMHはLMP1の後継、マシンのほとんどをマニュファクチャラーが開発できる
- LMDhはDPIカテゴリーの後継、メインのコンポーネントは指定のメーカーから供給されるが、エンジンとボディイーワークは独自開発できる
- LMHとLMDhは同じくらいのマシンパフォーマンスだからカテゴリーに参戦できる
- これに加え参戦コスト・開発コストが安いため様々なマシンが参戦し、今人気のカテゴリーとなった。
以上です!
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