今のF1は速いけど音がな~っとか、あのころの甲高いサウンドをもう一度!などと考えている方は多いのではないでしょうか。実際あの甲高い爆音を響かせながら爆速で通過していくF1は確かにかっこよかったです。今回はエンジンの音の発生原理から、昔のF1がなぜ良い音だったのかを紐解いていきます。
そもそも「音」とは?

エンジンの音が出る原理の前に、音について解説していきましょう。
そもそも「音」とはなんでしょうか。
音とは空気の波です。物が震えるとそれが空気を押したり引いたりして「波」を形成します。これが耳に届くと人間には「音」として認知されるのです。
この波は「音波」と呼ばれます。そして、この音波の性質によって「音の高さ」や「音色」「大きさ」が決まります。
音の3つの要素は次のように定義されます。
要素 | 説明 | 例 |
---|---|---|
高さ(周波数) | 1秒間に何回振動するか(Hz) | 高い音・低い音 |
大きさ(振幅) | 波の強さ | 大きな音・小さな音 |
音色(倍音構成) | 波のカタチの違い | ピアノとバイオリンの違い |
ここで一つ大事なことをお伝えします。音には大きく分けて2種類あるって知ってましたか?
- 音程がある音(例:ピアノ・バイオリン・笛の音など)
- 音程がない音(例:爆発音・拍手・ざわめきなど)
音程がある音は、波が周期的(くり返しのある形)になっていて、耳に「高さ(ピッチ)」として聞こえます。
一方、爆発音やノイズのような音は、一瞬で終わるし、波がバラバラで周期がないので高さがよくわかりません。
ちなみにもし知り合いに「おれ絶対音感あるんだー笑」っていう人がいたら、手をたたいて「この音なに?」と聞いてみましょう。もし音程をこたえたらその人ははったりです。なぜなら音程はないからです。
しかし面白いのはこの次です。爆発音にリズムが加わると「音程」が生まれます。
たとえば、爆発のような「一瞬で終わる音」でも、それが一定の間隔で繰り返されると、音に高さ(ピッチ)が生まれてきます。
これは人間の耳が「繰り返しの速さ(=周波数)」を感じとるからです。
早く繰り返されると高く聞こえ、ゆっくりだと低く聞こえる。まるで機械的なリズムが音階に変わるような感じです。
エンジン音は「周期的な爆発音」だった!

さて、ここで車のエンジンに戻ってみましょう。
車のエンジンはピストンが爆発(燃焼)することで動いており、それにともなってそれぞれの燃焼室から排気という作業を行っています。この排気が空気を押しだすことによって圧力が代わり、音が形成されるのです。また排気は1分間に何千回も、規則的に繰り返されています。すると、排気そのものはノイズでも、周期的にくり返されることで「ブーン」と音程が生まれるんです。
たとえば、エンジンが3000回転/分(RPM)だと、1秒に50回まわっていて、4気筒なら200回/秒くらい爆発音が出ています。
このパルスの繰り返しが、私たちの耳には「音の高さ」として聞こえるわけです。
なぜ昔のF1の音は高いのか?

ついに本題です。
上記より、音を高くするには周波数が大事だということがわかりましたね。エンジンの場合、同じ時間により多くの排気、つまり爆発が起こればいいということになりますね。
その方法が2つあります。
ひとつは気筒数を増やすこと。
例えば4気筒のエンジンだとクランクシャフトが3000RPMで回っていると一分間に6000回の爆発が起こります。
これが10気筒や12気筒の場合、クランクシャフトが3000RPMで回っていると一分間に15000回、18000回爆発が起きている計算になります。
同じ回転数なのに爆発数はけた違いに多いですね。
もうひとつは回転数をあげること。
4気筒で考えた場合、3000回転なら1分間に6000回ですが、回転数を上げて8000回転の場合、16000回爆発する計算になります。
つまり気筒数が多くて回転数が高いとより高い音がなるわけです!
昔のF1はまさにこの二つをしていました。
フェラーリ黄金期といわれた2000年代前半は気筒数が10気筒、そして回転数にいたっては最大20000RPM超えと車のエンジンにしては高すぎる回転数を誇っていました。だからあんなにいい音がでていたんですね。
今のF1の音はなぜ低くて小さい?
ここまで読んだあなたならもうお分かりかもしれませんが、簡単に説明してみます。
まずF1のエンジン音が大きく変わったのは2014年のレギュレーション変更以降です。それまでV8自然吸気だったのがV6ターボに変わり、さらにハイブリッドシステムも追加されました。8気筒から6気筒に気筒数が減少したことでまず音が低くなることはわかりやすいですね。
さらに回転数にも15000RPMの制限が追加されました。しかしこの制限よりも実際の回転数を制御したのは燃料流量の制限です。実は10500RPMまでは燃料流量は比例して増えていきますが、それ以上の回転数になると流量が一定になってしまうため、いくら早く回してもパワーを引き出せなくなってしまったのです。これによりエンジン回転数は2014年から大きく減少し、より低い音を発生するようになりました。
また音も小さくなりました。これは主にターボとMGU-Hによるものです。それまで自然吸気だったエンジンでは、排気に一切エネルギー回収をするものが存在しなかったためエネルギーが音としてそのまま垂れ流されていました。しかしターボとMGU-Hは一部の排気のエネルギーを吸気圧縮、または電気エネルギーとしてためることに使うので、最終的排気として捨てられるエネルギーが小さくなり、音も小さくなりました。
このように音に関しては改悪と感じるレギュレーション変更ですが、より少ない燃料でパワーを出す、また捨てられていたエネルギーを回収するという2つの点において技術革新として非常に大きな意味を持つものなのです。
まとめ
・エンジンは排気の一瞬のノイズを一定のテンポで繰り返す
・その繰り返しが人の耳には「音」として認識される
・昔のF1の音が高いのは多気筒・高回転のエンジンで周波数が高かったから
・今のF1はエネルギーを音として捨てず回収しているため音が小さい
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