【F1】ギアボックスの仕組み

F1の技術

今回はF1のギアボックスのレギュレーションや仕組みについて解説していきたいと思います。

なぜサスペンションが直接取り付けられているの?

一般的な乗用車や下位カテゴリーのレーシングカーではエンジンやギアボックスはシャシーの中に納まっており、サスペンションはシャシーに取り付けられています。しかしF1ではシャシーはエンジン前までしかありません。シャシーの後ろにエンジン、その後ろにギアボックスとつながり、サスペンション構造はすべてギアボックスに構成されています。

1960年代までのF1は乗用車と同じ構造をしていましたが、マシンが高速化することで軽量化が重要となり、さらにエアロ開発が激化するとコンパクト化も重要になりました。そこでエンジン・ギアボックスをシャシーの一部とするストレスドメンバーという構造にすることでシャシーを短縮し軽量化でき、さらに余計な構造物が取り除かれるためコンパクト化にも成功したのです。

現代のギアボックスはよりコンパクト化するため構造解析を行い、解析結果を忠実に再現できる金属3Dプリンターを使用して製作されています。

シフトチェンジの仕組み

F1のギアボックスと聞くととても難しい構造をしていそうですが、実はとてもシンプルで一般のマニュアルギアボックスと大差ありません。マニュアルギアボックスの解説はこちらの動画が詳しくしてくれているので参考にしてください。

レーシングカーではシンクロシステムの代わりにドグシステムを採用することで耐久性を向上させ、さらに早くてミスのないシフトチェンジを実現しています。また回転方向の動作をシフト操作に変化することができるとF1のようなパドルシフトにも応用が利きます。こちらの動画ではドグクラッチとシーケンシャルミッションの仕組みについて解説されており、F1のギアボックスに近い仕組みが多いのでぜひ見ていただきたいです。

F1のギアボックスはシーケンシャルドグミッションをパドルシフト化したものに近いのですがそれだけではF1レベルの早いシフトチェンジは不可能です。ギアを選択するためのセレクターシャフトが1つしかないとドグを1つ抜いてから次のドグをかませないといけないからです。

このロスタイムを解決するためF1ではセレクターシャフトが2つあります。1つがドグを抜いている間にもう1つが次のギアにドグをかませているので変速スピードが大幅に向上するのです。しかし精密な制御ができなければ2つのギアが同時に繋がってしまいブローさせてしまいます。

こちらの動画では3Dプリンターを使ってF1のギアボックスのモデルを製作しています。シームレストランスミッションがどのように動くのか視覚的にわかりやすいと思ったので紹介しています。

ギアボックスのレギュレーション – 多段化の必要性

これまでF1は6段から7段、2014年には8段と多段化してきましたが、それには訳があります。昔は年間に使えるギアボックスの数は無制限でしたが、環境へ配慮する時代の流れとともにギアボックスの年間機数が制限され、年々厳しさを増しました。つまり同じギアボックスで違うサーキットを走らないといけないためギア比を合わせづらくなったのです。多段化することにより低速サーキットでも高速サーキットでもギア比がそれなりに合うようになり、機数制限の弊害を補っているのです。

ちなみに2022年からはギアボックスはケーシングとカセットに細分化され、それぞれに機数制限が設定されました。ケーシング自体は上限3機、カセットは「ギアボックスドライブライン」、「ギアチェンジコンポーネント」、「補助コンポーネント」に分けられそれぞれ上限4機となっています。細分化したことによりそれぞれのパーツに適切なマイレージが設定可能となり、より環境に配慮したレギュレーションとなりました。

またレギュレーションでリバースギアの装着が義務付けられていますが、F1でリバースギアを使うことはそんなにありません。できれば使わずにフィニッシュしたいですよね。ですからほぼ不要なリバースギアは軽量化のためとても小さく貧弱なつくりとなっており、気を付けて扱わないとすぐに壊れてしまいます。

矢印が指すギアがリバースギア。他と比べて薄く作られているのがわかる。
参照:X.com/Scarbs.Tech

まとめ

今回はギアボックスについて解説しました。まとめると、

  • ギアボックスはシャシー構造の一部を構成するストレスドメンバー
  • 乗用車のMTミッションとほぼ同じ構造だがドグクラッチを使用し、セレクターシャフトを2つ用いることで高速なシフトチェンジを実現している
  • 環境配慮によるギアボックス機数制限に対処するため多段化が必要になった

今回は以上です。

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